GLOCAL Vol.4
24/32

22年にかけてスタッフ一同で実施してきた研究報告会を出発点とし、2010年4月の後期課程設置に向けて開催したシンポジウム「21世紀新時代の世界理解―歴史学、地理学からのアプローチ―」(2009年7月)を基礎に開催されたという歴史的な経緯があります。 この点を踏まえれば、2011年以降のシンポジウム企画には、歴史学と地理学の方法論から「21世紀新時代の世界理解」を具体化するために、春日井を対象とする地域研究を核にしつつ、地球的規模で展開する現代社会を見通そうという中長期的な視点が確実に含みこまれていたと私は理解しています。 この点を継承し、私たち教員が春日井地域を単に分析・研究の対象とするのではなく、時間軸と空間軸を統合した学問の方法論を鍛える場と位置づけ直し、その上で共同研究を立ち上げ、研究の初発段階から方法論を含めた様々な議論を重ねながら、専攻固有の方法論にまで高めていく、そのような創造的な共同作業を専攻として着手してみたいというのが、現在の私の夢です。おわりに 繰り返しになりますが、以上の内容はあくまで私個人の夢であり、専攻全体として構想を示したものではありません。もちろん学問の方法論を構築するには、長い期間にわたる試行錯誤が必要です。またそのためには時間と労力も必要です。しかし、歴史学・地理学専攻の院生もこうした教員が試行錯誤する場に参加することで、私たちが掲げる教育目標に到達することができるのではないでしょうか。 専攻開設から6年。過去を検証し、現状を把握し、未来を展望するためには、ちょうど良い時期といえます。次なるステップを目指して、まずは第一歩を踏み出したいと考えています。て進学してきた人たちですが、教員・会社員などの経験を経て入学した社会人も含まれています。 26号館1階には院生の学習・研究の場として院生室があります。この院生室は他専攻の院生との共同スペースであり、現時点では院生一人に一つの机が割り当てられ、研究に専念できる環境が用意されています。院生室は異なる専門分野の院生や社会人経験者などとの交流を通じて、学問的にも人格的にも互いに刺激をうける場にもなっています。 これまでに提出された修士論文は、近世初期の名物茶器を考察した研究や近世の思想家佐藤一斎に関する思想史的研究、尾張藩領内における鉄砲取締政策や瀬戸焼と美濃焼の地域的流通の比較検討といった尾張・美濃地域を対象とした研究、ルネサンス期の商人文化や魔女裁判をテーマとする西洋史研究、廃川跡地の土地利用に関する地理学的考察など、多彩な内容となっています。 一方、各教員の研究活動を市民の皆さんに還元する活動も行ってきました。たとえば国際人間学研究科主催のシンポジウム「地域をむすぶ産業・生活・文化―春日井における街道と鉄道の歴史・地理について考える―」(2011年10月)、「林金兵衛とその時代―幕末・維新期の春日井―」(2012年1月)、「小牧・長久手の戦いと尾張東部」(2012年12月)など、歴史学・地理学専攻に所属する教員を中心に、春日井地域や他大学の研究者を招き、参加者とともに議論を交わしました。 これら春日井地域を対象としたシンポジウムには、春日井市民を中心に毎回80名近い参加者があり、私たちの専攻に対する地域・市民からの期待を実感することができました。これからの歴史学・地理学専攻 -私の夢- 最後に、以上のような専攻開設から6年間の教育・研究活動を踏まえ、これからの歴史学・地理学専攻の方向性について私の夢を語ってみたいと思います。 既に述べたように私たちの専攻の教育目標は、歴史学と地理学という二つの学問から、時間軸と空間軸を意識して過去・現在における人間の活動や社会現象を把握する人材を養成することにあります。ここでの「時間軸」は歴史学を、「空間軸」は地理学を象徴していることは明らかです。問題は、時間認識と空間認識の統合ないしは融合といういわば研究の方法論です。ちなみにこの研究方法が如何に有効であるかは、「歴史認識のズレ」を空間から読み解いた次に掲げる山元貴継先生の文章をお読み下さい。 私たち歴史学・地理学専攻に所属する教員は、歴史学、地理学それぞれの立場からこの「時間認識と空間認識の統合」という教育目標を常に意識して活動を展開してきました。しかし、極端な言い方をすれば、院生に対して歴史学を通じて時間認識を、地理学を通じて空間認識の養成を行い、後は院生自身にその統合を期待するという、いわば待ちの姿勢だけでは不十分なのではないでしょうか。 そこで私が提案したいのが、教員自身も研究活動を通じて時間軸と空間軸を統合した学問の方法論を鍛えていくこと、言葉をかえれば教員自身の学問の方法論を進化させる営みを共同作業として実践することです。 実は先ほど紹介した2011年と2012年に開催してきたシンポジウムは、歴史学・地理学専攻が開設された2008年から2009歴史学・地理学資料調査の様子シンポジウムの様子

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る