GLOCAL Vol.3
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2013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.32013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.313国際人間学研究科 心理学専攻佐藤友美(SATO Tomomi)2012年お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科博士後期課程修了。専門分野は幼児期・児童期の社会性の発達。satot@isc.chubu.ac.jp触ったかどうかを尋ねる。 Lewisら(1989) は3歳を対象に、誘惑抵抗実験を用いて子どもがいつから嘘をつけるようになるのかを検討した。その結果、おもちゃを触った3歳児の38%がおもちゃを触っていないと真実とは異なる回答をしていた。しかしこれは、3歳児が嘘をついたのではなく、「触ってはいけない」ということばが理解できていない、もしくは自分の「触った」という行動を覚えていないためではないか、という疑問が残る。そこで、Polak and Harris(1999) は3歳児と5歳児に対して「触ってはいけない」という先ほどと同じような状況に加えて、「触ってもいいよ」とおもちゃに触ることを許可する状況を与え、その後おもちゃに触ったかどうかという質問にどのように答えるのかについて検討した。その結果、3歳は触ってはだめといわれたときにも触っていいよと言われたときにも触っていないと答える傾向が、5歳児よりも高かった。つまり、3歳児の「ウソ」は嘘ではないということになる。3歳児はなぜ「ウソ」をつくのか しかし前述したように、子どもは3歳になると現実とは異なる「ウソ」をつくようになる。なぜこのような「ウソ」をつくのだろうか。1つの理由に、現実と想像を区別していないことが挙げられる。子どものことばの発達 人はことばをもって生まれてくるわけではなく、発達の過程で獲得されるものである。ことばの獲得により、人は多くのことが可能になる。たとえば、プランを立てて行動するというように自分の行動の制御が可能になったり思考することができるようになる。したがって、ことばがいつ頃どのように獲得されるのかは、発達心理学において重要なトピックであり、多くの研究がなされてきた。 ことば(初語)が出てくるのは9か月頃からである。2歳頃になると語彙が急激に増える語彙爆発が起こる。3歳になる頃には、ことばが豊かになり、ことばによるやりとりも安定したものへとなっていく。この頃の特徴的なことばの使用に「ウソ」が挙げられる。親が認識する子どもの「ウソ」 3歳頃になると、子どもは実際に行ったことのないところに行ったと言ったり、できないことをできると言ったりする。このような子どものことばに不安を募らせる親も多い。我が子は純粋だと思っていたのにもかかわらず嘘をつくなんて、といった相談を担当保育士や担当教員がよく受けるようになるのもこの頃である。 子どもの「ウソ」をどのようにとらえるかは、親によって異なる。特に育児不安の高い親は、子どもの「ウソ」を「ウソ」であるとより確信をもってとらえている可能性がある(菊野、2013)。育児不安とは育児に対する否定的な感情のことであり、「育児に自信が持てない」といった、育児への心配、不適合感や、「子どものことがかわいいと思えない」といった子どもへのネガティブな感情や攻撃・衝動性のことをいう(川井ほか、2000)。子どもの「ウソ」をより確信して捉えることは、子どもに対するネガティブな感情を高めるため、より育児不安を高めると考えられる。育児不安が高まれば、子どもの「ウソ」にまた敏感になるといった、悪循環も想定される。育児不安を低減させるためには、不安感を低減する介入のみならず、子どものことばを正しく理解することも重要であると考えられる。そこで子どものつく「ウソ」について、これまでの研究を諦観したい。3歳児がつく「ウソ」 子どもが嘘をつくかどうかを検討する方法として、誘惑抵抗実験というパラダイムがある。具体的には、部屋に子どもにとって魅力的なおもちゃを置いておき、子どもを連れてくる。実験者は子どもに、おもちゃを触らないようにと指示して一人残して部屋を出る。その間の子どもの様子を観察し、子どもがおもちゃに触るかどうかを確認する。一定時間後実験者は部屋に戻り、子どもにおもちゃを気持ちの理解の芽生えを映す子どもの『ウソ』

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