GLOCAL Vol.2
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4考えられるが意識が過剰になった様な場合は冷静な思考力を失うので右端の方は逆の関係を想定している。 図1で左端の方は認知がほとんど機能していない無意識的な場合で家事の動機づけなど習慣的な動機づけはその場の感情や気分の方が強く働き、その大きさが決まると考えられる。もう少し右に行き意識化の程度が進み、認知成分の方が感情成分よりも強く機能し動機づけが決まるとされるのは現代の多くの認知的動機づけ理論が想定している立ち位置である。それは冷静に状況を判断したり、推測できる状況での動機づけといえる。さらに意識水準が高まる状況はおそらく本人にとっても相当重要な、さらには時間もかかる動機づけで、先の例ではネガティブ感情などが強く働く場合である。この場合は認知成分も感情成分も強いことになろう。ただここで付言しておきたいのはこれまでネガティブ感情だけに着目して話してきたが、それが動機づけとして十分機能するためには大きな目標を達成するという期待や喜びも想定されていることである。さらにはネガティブ感情が目標対象に対する動機づけとなるためには、怒りや不満を外的対象や自分自身に対して爆発させて機づけ機能が、右前頭前野に回避動機づけ機能があるとされるが、怒りの感情は左前頭前野の活動を増大することが証明されている。このように怒りや欲求不満の感情は対象から回避するのでなく、逆に対象に接近しようとする動機づけ機能を有するのである。 習慣的動機づけに関してはこれまでにほとんど心理学的知見が蓄積されていない。ただ、ペクラン(Pekrun,R.H.)はすべての動機づけ思考が働くわけではないとして、同じことが繰り返して起こると動機づけは習慣化し慎重な熟慮を経ずとも自動的に生じるとしている。また、私たちが家事の動機づけについて調査したところ「体が勝手に動くから」とか「やるのが習慣だから」という項目からなる生活習慣とでも呼べる家事の動機づけ因子の因子得点が高かった。しかし、習慣化した行動を喚起させたり抑制させたりするものは何かについての検討はこれまでになされていない。ただ筆者は、それは行為者のその時々の穏やかなポジティブ気分や雰囲気、感情ではないかと推測している。気分が良いときに人は何の抵抗もなく習慣的行動を行使するが、気分が悪いとそのことで心を乱し習慣的行動を行使する心理的余裕がない。一般的にはそのように推測できるが極上の喜びを経験した様な場合は実は有頂天になり、興奮しすぎて習慣的行動を行使しないと予想される。動機づけ、認知、感情の関係モデル 最後に私の考える動機づけ、認知、感情の関係モデルを呈示すれば図1のようになる。ここで横軸は覚醒(意識)水準で左が無意識的であり、右にいくほど意識水準が高まることを意味している。縦軸は動機づけ、認知、感情の強さを意味している。そして原則的には動機づけは認知成分と感情成分、両者の強さから構成されると考えている。認知は行動目的や理由、原因推理の明確度を強さとしている。認知の強さと意識水準はほぼ同じようにしまわない自己統制力が必要である。さらに一番右の状態があまりに感情が高まり過ぎて自己統制ができなく、冷静に考えることもできなくなり、認知成分が機能せず、感情的に混乱し行動できない状態である。 このモデルに従えば認知成分が感情成分に優る認知的動機づけ理論が適用できる範囲以外の箇所の動機づけ研究はほとんど手がつけられていないと考えられ、今後の発展が期待される。引用文献Carver, C. S. (2004). Nagative affects deriving from the behavioral activation system. Emotion, 4, 3-22 速水敏彦 (2011). 動機づけ研究の道程 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(心理発達科学)58 1-12Pekrun,R.H. (1993). Facets of adolescents’ academic motivation: A longitudinal expectancy-value approach. In M.L.Maehr & P.R.Pintrich(Eds), Advances in motivation and achievement. Vol.8: Motivation and adolescent development. 139-190. Greenwich CT: JAI Press Inc.立花隆+東京大学教養部立花ゼミ (2002). 二十歳の頃 Ⅱ 新潮社図1 動機づけ,認知,感情の関係モデル 速水(2011)による。ネガティブ感情動機づけ認知成分家事の動機づけ認知的動機づけ理論(習慣)低覚醒水準高感情的混乱動機づけ感情成分

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