GLOCAL Vol.2
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16再び甦ることのなかった地域も多かった。昭和34年の伊勢湾台風も、祭りや芸能にとって大きな痛手となり、高度成長期になって効率化が重視されるようになると、伝統的な芸能を見放すような風潮になったという。昭和40年代後半から50年代にかけて、各地で忘れられていた祭りや芸能を復活させる気運が高まったが、既に青年会は解散し、消滅していたため、熱心な経験者が担うことになり、伝承母体として保存会を結成するところが多くなった。 神事芸能は女人禁制であったが、保存会が子供会に依頼して参加者を募集するようになると、女子も加わるようになった。約20年前、豊田市の猿投で女子が神事芸能に参加したときは賛否両論であったが、後継者不足の現状では、地域の理解があれば、女子に参加を認めるべきではないかと論じた。民俗芸能を経験した女子はやがて母親となり、民俗芸能のよき理解者として子供を参加させることになるからである。 最後に、民俗芸能が今日あるのは先人たちの努力の賜であり、私たちはその努力に思いを馳せ、後世に伝えていくように努力しなければならないと訴えた。 地域文化が地域社会への帰属意識を醸成するものであることは言うを俟たない。服部氏が紹介した日進市香久山地域におけるお月見泥棒は、新興住宅地に転居してきた者が地域社会と関係を持つよい機会であり、集団で菓子を取りに行くことで仲間意識を培うことにもなる。堀尾氏の保存会では、演技指導を通して子供たちの心身の成長を見守っているという。夜の練習は子供にとって辛いこともあろうが、家族以外の大人との関係を持ち、仲のお月見泥棒は、本来の行事とは別ものであるが、希薄になりがちな近隣関係をうまくやっていくための装置としての意味がある。年中行事を継承するためには、そのものの本質を見抜くことのほかに、このように新たな意義を見出すことが重要であると論じた。 堀尾氏は、「棒の手」の歩みと現状、保存会の活動を報告した。「棒の手」とは棒術、剣術、薙刀術などによる民俗芸能であり、尾張東部及び西三河に分布する。同地域には、また「馬の塔」という、馬を飾って社寺に奉納する行事がある。棒術の者が献馬の警護を務めるようになり、それが祭礼儀式に変化したものが「棒の手」であるという説があるが、一説によると、戦国時代に農民が夜盗の横行を防ぐ自衛として武芸に励み、それがやがて神事芸能になったという。これらの説に関して、尾張徳川家の領地では戦闘要員として活用できるように武術的な芸能を容認する素地があったという仮説を立て、「馬の塔」という組織的かつ費用のかかる行事が尾張・西三河を中心に行われていたのは、農村の豊かな経済力が前提となっていたと論じた。また、流派の一つである源氏天流の名称について、源氏の流れを汲む吉良氏との関係を指摘した。 第二次世界大戦後、若者人口の激減と戦後の混乱のために「棒の手」は伝承の危機に直面するが、愛知県文化財保護条例(昭和30年)の制定により、源氏天流小木田をはじめ各地の「棒の手」が愛知県無形民俗文化財に指定され、保存会が結成された。その県内の「棒の手」保存会に対して実施した調査(平成23年7月)結果として、保存会会員の年齢構成、流派の伝承の程度、同一流派間の関連性、「馬の塔」との関連の有無、各流派の史料の公開、また「棒の手」の伝承と今後の課題として、後継者、子供の参加、地域の少子化傾向、地元の協力意識等について報告があった。 最後に、「棒の手」の継承のためには若者を役員に起用すること、積極的に広報活動を行うこと、各流派の指導者が交流し、若者同士が胸襟を開いて話し合うことが必要であると提言した。更に、以前は商店の依頼で「棒の手」を披露することがあり、祝儀で衣装や道具の調達を賄えたが、最近はそうしたことが激減し、衣装や道具の高騰と相俟って予算不足が深刻な問題になっているという、保存会の立場からの切実な訴えがあった。 鬼頭氏は、尾張地方の広範囲に分布する主な民俗芸能として、祭礼囃子・太鼓芸能、獅子芝居、曲芸獅子、棒の手、手踊り、山車からくり人形、木遣、万歳、また独特な民俗芸能として羯鼓稚児舞、風流系芸能について、その分布と特色について紹介した。 これらの芸能は、社寺の祭礼や氏神の例大祭で演じられるのが主流であり、その目的は神事芸能として奉納することである。担い手は、それぞれの地元に住む若者であり、彼らはその土地に伝わる芸能を担うことで精神的に成長し、一人前の大人として認められた。若者の組織は、古くは若者組または若い衆と呼ばれ、近代になると青年団、青年会と名称が変わった。第二次世界大戦後は青年会が一般的になり、女子が加わるようになったが、民俗芸能は依然として男子だけが受け継いでいた。 戦時中、若者たちの徴兵によって祭りや芸能が一時的に途絶え、終戦後、復員した若者たちによって復活するが、そのまま消滅し、写真5 鬼頭秀明氏の講演写真3 熱田神宮奉納演技(平成23年6月5日)写真4 熱田神宮奉納演技(平成23年6月5日)

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