GLOCAL Vol.2
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2013 Vol.22013 Vol.215国際人間学研究科 言語文化専攻教授 永田典子(NAGATA Noriko)1983年甲南女子大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文学修士。専門は平安、鎌倉時代の説話文学研究、及び口承文芸の民俗学的研究。近著に「書き継がれた伝統と変化」(『愛知県史 別編 民俗1 総説』、愛知県、2011年)がある。http://cerisiers.p2.bindsite.jp/市化を例とした。農村では農業由来の年中行事があり、そこにはハレとケのサイクルがあった。しかし、行事の由来が不明となると、行事は次第に消滅し、ハレとケの意識が希薄になってきた。一方、ポピュラーな行事は依然として残るため、農村の年中行事も全国的な一律化の傾向にあると指摘した。 但し、都市において新たな年中行事が生まれることがある。かつての民俗事象に新たな意味を見出して現代風に利用するフォークロリズムの例として、日進市の新興住宅地である香久山地域におけるお月見泥棒の行事が紹介された。十五夜の月見は、農村では畑作の収穫物を神に供えて感謝する行事であり、神に代わって子供が供え物の団子を盗んでもいいというしきたりがある。ところが、この地域では、お月見泥棒のために家の前にたくさんの駄菓子を用意し、子供が集団で取っていくという行事が行われるようになり、それに影響されて周辺の農村で途絶えていたお月見泥棒の行事が復活したという。新興住宅地で地域文化の保存・継承を問い直すシンポジウム 生活様式やしきたり、祭礼などの地域文化は、住民同士の繋がりや郷土愛を育みながら継承されていくものであり、主役は地域住民である。その歴史と伝統は、いわば地域社会の個性であり、魅力でもある。しかし、社会的、経済的環境や人々の家族観、集団意識などの変化に伴い、その継承が難しくなり、地域性が稀薄になってきた。そこで、地域文化の現状を知り、保存と継承の意味を問い直すシンポジウム「尾張の地域文化を考える」(国際人間学研究科主催)を企画し、2012年11月24日に文化フォーラム春日井で開催した。パネリストとテーマは次のとおりである。服部 誠氏(名古屋市文化財調査委員会委員・日本民俗学会評議員)「都市化と民俗─変容と創生─」堀尾久人氏(春日井市郷土史研究会会員)「棒の手のあゆみと現状、そして継承―地域の祭りと共に生きる源氏天流小木田棒の手保存会の活動を中心にして―」鬼頭秀明氏(愛知県文化財保護審議会委員・名古屋市文化財調査委員会委員)「尾張の民俗芸能─その担い手と継承―」 三氏の発表の概要は、次のとおりである。 服部氏は、都市の民俗の性質を農村の民俗の変化したものと位置づけながらも、例えば都市における卓袱台での食事や食器洗いのしきたりが、箱膳を用い、食器を洗わない農村に取り込まれたように、都市には農村の民俗を先取りしたものがあることを指摘した上で、カネ遣いの進行、及びハレとケの変化という観点から都市化と民俗という問題を論じた。 カネ遣いの進行については、葬式の都市化を例とした。農村での葬式は、家族と近隣の人々の手伝いによって自宅で営まれ、香奠の範囲内で賄われるのが一般的であった。しかし、40年前頃から都市と同じように葬祭業者に依頼するようになり、葬列を組むこともなく、カネをかけて葬祭場で執り行うようになった。それは民俗の都市化であり、葬祭業者に委ねることによって、死者は家族のものという本質が見失われがちになったと論じた。 ハレとケの変化については、年中行事の都尾張の地域文化を考える写真1 服部誠氏の講演写真2 堀尾久人氏の講演

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