GLOCAL Vol.1
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14の問題意識をもつ人々が結集することが必要である。これがテーマ型組織である。 次に、その組織の中心的役割を果たすキーパーソンの存在が不可欠である。キーパーソンは地域の中で発掘するか、育てるか、あるいは外から呼んでくるかしなければならない。しかし、ひとりの人間ができることには限界がある。キーパーソンを支える仲間づくりがさらに必要となる。長野県阿智村では、5人以上の村民が集まって「村づくり委員会」を組織し、勉強会や研修会を開催し、意見を取りまとめてシンポジウムなどで提案すれば、次年度には予算化されるという住民提案型の制度が整っている。 また、組織をつくる際には、「責任の所在の明確化」と「多様な市民の参加」が課題となる。前者を重視した例が長浜の株式会社黒壁であり、後者を重視した例が株式会社飯田まちづくりカンパニーである。これらは相反する考え方にたっており、置かれている状況によりどちらの形式を選択するかが決まってくる。黒壁は、相当額の金銭的負担を限られた出資者が負うことによって、事業の成功に向けて責任をもって取り組むようになることをねらって選択された組織形態である。一方の飯田まちづくりカンパニーは、中心市街地の活性化を目的としており、全市的な市民の理解を得て合意形成を図らなければ実現不可能な問題であることから選択された組織形態である。 まちづくりに対する市民意識が高まり、責任と主体性のあるまちづくり組織が結成されれば、後はいかに持続可能なまちづくりのための仕組みをつくるかである。これが第三の課題である。地方分権が進められ、国から地方へさまざまな権限が委譲されるなかで、自立したまちづくりを進めていくためには規範となる独自のルールが必要となる。その役目を果たすものとして「条例」がある。地域が主体的にまちづくりを進めていくには、条例をまちづくりにうまく活用していくことを考えていくことが必要である。 また、これまでのまちづくりの成功事例をみると、それらはまちづくりの担い手たちの熱意と善意によって支えられてきた。しかし、多くの凡人の場合、熱意や善意は時間とともに薄れていくのが常である。無償のボランティアは責任の所在が不明確であるとの問題点も指摘されている。そこで、持続的なまちづくりの手段としてコミュニティビジネスが注目されている。これは通常のビジネスとは異なり、お金による利益を第一の目標とはせず、いかに地域に貢献するかを最大目的とするビジネスである。経済性と公共性を兼ね備えた、企業とボランティアの中間的な存在である。このコミュニティビジネスの考え方をまちづくりに導入することにより「信頼性」と「継続性」が確保され、持続的なまちづくりを可能にする。 新しい時代を切り拓いていくためには、これまでの価値観にとらわれない新しい発想への転換が必要である。今日のような時代の大きな転換期には、それらの変化にいかに柔軟に対応していけるかが、都市の生き残りを左右する。「経済性」ばかりを追求してきたこれまでの反省にたち、「文化性」を重視することがこれからの成熟した社会では求められる。それは本物志向のまちづくりである。本物志向とは、歴史に培われ、育まれてきた「文化」を大切にすることであり、人間性豊かな生活のなかから新たな文化を創造していくことである。文化的な要素をまちづくりの中に取り入れていくことこそが、これからのまちづくりでは重要である。これが第四の課題である。これこそが持続的発展をめざした地道なまちづくりである。まちづくりへの地理学の貢献 人口減少時代への突入、少子・高齢社会の到来、環境問題の深刻化など、わが国を取り巻く環境はたいへん厳しい状況にある。これらの諸課題に対処し、時代の変化に的確に対応していくことが求められている。時代を正しく認識し、現状と問題点を構造的に把握する。そのうえでこそ効果的な対応策を講じることができる。そこには地理学の研究成果や手法を活かせる場面が多く存在する。地理学は現象の発生メカニズムを解明する学問である。病気の原因に関する詳しい知識をもっているからこそ、医者は患者の病気を治すことができる。病におかされているまちを治療するためには、その原因を究明し、病状にあった的確な処置を施さなければならない。空間的位置関係や場所的特性に着目した分析から得られる有益な示唆は多数ある。画一的なまちづくりにならないよう、地域の個性をまちづくりに取り入れていく際にも地理学の研究成果は活かせるであろう。 しかし、一般に研究のスピードとまちづくりの実践のスピードとの間には大きな格差が存在している。地理学の研究成果をまちづくりに活かしていくには、研究成果をいかに社会に還元するかを常に念頭に置き、「研究」と「実践」の隙間を埋める努力が地理学者には求められる。その際、都市工学などの隣接科学との連携が重要となる。地理学は基礎科学である。都市工学などの応用科学との連携を強めることにより、社会での地理学の存在意義も高まるものと考える。文献日本建築学会編(2006)『まちづくりの方法』丸善株式会社田村 明(2001)『まちづくりの実践』岩波新書J.ジェイコブズ(1961)『アメリカ大都市の死と生』山形浩生訳、鹿島出版会E.F.シューマッハー(1973)『スモール・イズ・ビューティフル』小島慶三・酒井懋訳、講談社学術文庫写真4 文化的資源として保存・活用されている桑名の六華苑

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