EDUCATUS Vol.1
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紙の辞書とネット辞書 1990年代からインターネットが急速に普及し、2010年代にはスマートフォンという小型情報端末を誰もが手にするようになりました。これらの環境の変化で、人々のコミュニケーションの在り方が大きく変わり、言語をめぐる状況も大きく変化しました。だれでも公にSNS等を通じて気軽に発信できるようになりました。このことに伴い、「ことばの揺れ」が大きくなりました。言葉の使い方の間違いも含め、新しい言葉の使われ方が次々に為されるようになりました。インターネットの辞書は、作り手の側からは、新しい言葉の使われ方に対して対応することが容易で、コストも少なくて済むこと、広がりをみせています。また、使う側も、簡単に言葉を入力することで語釈や例文を調べられるので便利です。 しかしながら、教育的見地からすれば、簡単に調べられるからといって、語彙を理解したり、定着したりすることにはなりません。大切なのは、紙が使いやすいか、ネットが使いやすいか、あるいは紙が低コストなのか、ネットが低コストなのかではなく、学習者の諸能力が向上するのかという点を考えなければならないのです。その意味において、紙の辞書を活用した辞書引き学習は伝統的な方法と考えられます。しかし、このメソッドにおける辞書の活用の仕方は斬新で、まさに「コロンブスの卵」。シンガポールの教育関係者からは、”Simple, but powerful”と評価されています。「辞書引き学習」の導入とその成果 辞書引き学習とは、「調べたい言葉があったら辞書で引く」という従来の辞書指導の範囲に留まらず、「辞書を読んで既知の言葉を探すこと」を児童・生徒に行わせます。あえて、知っている言葉を辞書から見つけ出させて、その言葉を読ませることで、辞書を引くきっかけを与えるのです。 この手法は、言葉を扱う作家やライター、あるいは辞書愛好家が日常的に行っていたことなのですが、辞書をひくきっかけを、辞書自体を読み物として与えることで、辞書を引くだけではなく、読むことから、言葉を調べたいという意欲を引き出します。 そして、辞書を読むことをすすめるために、付箋紙に通し番号と見つけた言葉を書き込ませながら、自分の頭の中にある言葉を意識させるようにします。自分の頭の中にある見えない言葉を付箋に書き出すことによって「見える化」するのです。この学習方法は、言語や国や地域にかかわらず、語彙学習をより活動的に展開する方法として導入することが可能です。 現在、日本、イギリス、シンガポールでこの学習法は実践されています。イランでも広くこの方法は紹介されています。 この学習方法は、大きな成果を上げています。国際学会で継続的にこの研究成果については発表しています。7

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