中部大学日本伝統文化推進プロジェクト活動報告書
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講師 高橋 亨氏(名古屋大学名誉教授) 2021年9月 29 日(水)、3011講義室において、高橋亨氏による「武家の時代の源氏物語―古典と政治権力―」と題する講演が行われた。本プロジェクトの本年度の統一テーマに沿った講演である。コロナウイルス感染禍のため、無観客開催となったが、一部のスタッフ学生や教員が聴講し、後日動画が公開された。 講師の高橋氏は、王朝物語と文学理論、物語絵研究を専門とされ、『源氏物語』研究の大家として知られる。講演は、高橋氏所蔵コレクションの源氏絵や源氏図屏風の詳細な解説から『源氏物語』の内容まで多岐にわたった。 「平安朝」の貴族社会で成立した『源氏物語』はやがて武家の古典ともなり、絵画化された多くの源氏絵が現存している。源氏絵は江戸時代の初めの作品が圧倒的に多い。徳川家康が征夷大将軍となるために「源」の姓を名乗ったことがその一因とされている。『源氏物語』や源氏絵は政治権力に必要とされ、武家権力者にとってのいわば聖典となった。また、絵巻や画帖として楽しまれた源氏絵は、武家に嫁す公家(貴族)の「嫁入本」、あるいは、城や豪華な邸宅の障子絵や屏風絵としても描かれた。有名なものでは、三代将軍家光の第一子、千代姫の初音の調度類(国宝)などがある(徳川美術館蔵)。講演会で紹介された六曲屏風の解説では、帚木巻、空蝉巻、夕顔巻などが取り上げられ、絵を通して、物語内容を想像しながら拝聴することができた。 一扇に様々な場面が描かれており、それぞれの場面は時系列が異なるが、木立や険しい山、雲などが場面を区切る役割を果たしている。取り上げられた人物では末摘花に興味を持った学生が多かったようである。目鼻立ちがしっかりしていて身長が高く、現代ではモデルとして活躍できそうなスタイルである。当時は、いわゆる「引目鉤鼻」が美人とされていたが、『源氏物語』の登場人物が現代にいたらと想像したようである。 江戸時代には源氏絵にカテゴライズされる絵が多く描かれたが、特殊な源氏絵や屏風の解説もあった。岩佐又兵衛派が若菜下巻の絵で、天皇になれなかった光源氏を、天皇や皇后が座る繧繝縁(うんげんべり)の畳に座らせ、金屏風の前に女三の宮を配置させている。時折、作家が間違っていることもあるが、それを発見する作業も源氏絵を見る楽しみである。 『源氏物語』は浮世絵の題材ともなった。今回は、柏木と女三の宮のパロディ化された作品が取り上げられたが、女三の宮が遊女に仕立てられ、男女の権力関係の逆転が描かれていた。さらに三島由紀夫と『源氏物語』にまで話が及んだ。『源氏物語』が作家の想像力や創作意欲を掻き立てる作品であったことがよく分かる。 学生たちは、講演前には本学19号館の建築資料製作室で寝殿造りや調度品の模型を閲覧し、講演後には学外研修として徳川美術館で国宝源氏物語絵巻を鑑賞する機会に恵まれ、今年度は『源氏物語』の世界に多く触れることができた。源氏物語講演会「武家の時代の源氏物語 ―古典と政治権力―」- 7 -

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