EDUCATUS Vol.2
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 今般のコロナ禍では、感染拡大防止の観点から、国内の大部分の大学が遠隔授業の導入を余儀なくされました。本学も例外ではなく、例年より1ヶ月ほど遅れた春学期の授業開始時点では、基本的に全ての科目が遠隔授業として実施される形になりました。その後、感染がいったん落ち着いた6月には実験や実習を伴う一部科目で対面授業が再開されましたが、大部分の科目は春学期を通して遠隔で実施されました。秋学期も半数以上の科目で遠隔授業が継続されています。 こうした前例のない事態における学生の学びや生活の状況を把握するために、春学期の終わり(7/29)に現代教育学科の1年生を対象にアンケート調査を実施し、88名から回答を得ました。その結果、遠隔授業の形態によって授業満足度に大きな違いが見られることが明らかになりました。遠隔授業の形態は、①ビデオ会議システム(Zoomなど)を利用した双方向型授業、②動画配信をともなうオンデマンド授業、③資料配布によるオンデマンド授業の3つに分けられます。こうした授業形態ごとの満足度を尋ねたところ、資料配布型の授業では約4割、動画配信型の授業では約7割、双方向型授業では約9割の学生が、「とても満足」または「おおむね満足」と回答しました。昨年度の全学における授業評価の結果と比較すると、双方向型授業のみが同等の水準でした。自由記述では、資料配布型授業について「課題が多いのに結果を返してもらえず、やる気をなくした」など、課題量の割にフィードバックがないことへの不満が多く見られました。 一方、動画配信型授業については「何度も動画を見直して理解を確認できるのがよかった」、双方向型授業については、「先生の発問や他の学生との討論で考えを深めることができた」など、授業形態のメリットを挙げる回答が大部分を占めました。授業形態による満足度の違いについては、他大学の調査でも同様の結果が得られており、双方向型授業では対面授業の満足度を上回るという結果も示されています(立教大学経営学部調査)。~現代教育学部now~コロナ禍での遠隔教育キャンパス通信現代教育学科 講師 伊藤 大幸 ITO Hiroyuki博士(心理学)日本教育心理学会2017年度優秀論文賞受賞 日本健康心理学会2016年度本明記念賞(論文賞)受賞7 私自身、Zoomによる双方向型授業を実施しましたが、大人数の講義では対面授業よりも良質な教育機会が提供できることを実感しました。アクティブ・ラーニングの重要性が叫ばれる昨今ですが、50名を超える規模の対面授業では、授業内で学生との相互作用を図ることは容易でありません。学生に質問を投げかけても、一部の学生しか挙手しない、無回答や追従的な回答が多くなるといった問題が生じ、教室全体で議論を深めていくことは非常に困難です。しかし、オンライン授業では、発問に対してチャットで回答を記述させることで、全ての学生の考えを瞬時に把握できます。その中で興味深い回答や複数の対立する回答を取り上げて、詳細や根拠を説明させることで、議論を効率的に深め、全員参加のアクティブ・ラーニングを実現することができます。また、研究の結果について予想のグラフを書かせる、アンケートツールを利用して実際に実験を体験する、ブレイクアウトルームでグループ討論を実施する、遠方のゲストスピーカーに講演をしてもらうなど、学生のアクティブな学びを促す多様な工夫を容易に取り入れることができます。 こうした工夫は、実際に受講者の意欲や学習効果にもつながっています。私の担当科目では、毎回の授業の終わりに「300~1000字(超えてもよい)」を目安として、講義の内容をまとめる小レポートを課しましたが、回を経るごとに学生の記述量が増加し、春学期の最終講義における全受講者の平均記述量は目安の上限を大きく上回る1500字に達しました。例年の対面授業では、最も多い学生で700字程度でしたので、学生の意欲や理解度が大きく向上していることがうかがえます。 コロナ禍への緊急避難的な対応として始まった遠隔教育ですが、ICT技術の導入が主体的・対話的で深い学びの実現に貢献することを知らしめた点では、今後の大学教育の質を大きく向上させる機会にもなりえます。今後、教員間で実践知の共有・蓄積を図り、組織的な授業改善につなげていくことが期待されます。0%25%50%75%100%11.522.533.54

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