EDUCATUS Vol.2
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における環境状態や生態系に生息する同種間・異種間の多様性と共通性について、学生へ問い続けてきた。本項では、キャンパスの教材を利用した授業の一端を紹介する。(1)昆虫を知る  7月下旬、夏の到来を感じさせるセミ(カメムシ目セミ科)の多様な鳴き声が、種によって異なる時間帯に聞こえ始める。セミの幼虫は数年間土の中で樹液を吸って少しずつ成長し、羽化に適当な環境が整ったとき、土壌から出て、脱皮し成体になる。この脱皮が「セミの抜け殻」と呼ばれ、その殻の生物が、発見場所付近で生きていた生息環境を示す大事な証拠となる。 2013年ツクツクボウシ・アブラゼミ・クマゼミ、4年後の2017年はアブラゼミ・クマゼミの抜け殻がキャンパス内で確認できた。発見されたセミの中でもクマゼミは南方系のセミと言われ、市街地の木がまばらな乾燥した環境でも十分に産卵・ふ化・幼虫の成長が可能という地域の都市化進行の目安とされ、春日井市の都市化を知る手がかりとなる。また、セミの抜け殻そのものの構造(前脚の鋭さ、腹筋や複眼の様子など)を観察しても、セミの生態を知る手がかりとなる。生物の生きた痕跡から多様な見方ができることを知るきっかけの教材になればと思う。(2)土を知る 10月中旬、イチョウが色づき始めた頃、71号館の裏手にある林を活用し、土壌生態系の調査を行う。生態系は食物連鎖でつながっているが、土壌生物は落ち葉などの植物遺体の有機物を細砕し、分解者である土壌微生物の働きを助け、消費者でありながら、分解者的な働きも担う。 土壌生態系における生産者、消費者、分解者の繋がりを正しく認識する適応な教材といえ、学生にとって土壌形成の過程から土壌生物間のつながりについて知る良い環境が整っている。調査は全部で3つ。1つ目は土壌を深さ30㎝掘り、土壌生物が生息する土壌層の抽出、2つ目はその土壌を使用し、土壌微生物を、3つ目は土壌動物(大形と中形土壌動物はハンドソーティング法、小形土壌動物はツルグレン装置で採集)の存在を調査する。2016年は14種、2017年は17種と15種前後の土壌動物を確認した。土壌動物は自然環境の破壊や人為的な干渉といった環境の変化を敏感に感じ取り、生息場所を変えるため、その土地の自然の豊かさ(自然度)を知る手がかりにもなる。学生が実体顕微鏡で土壌動物の姿を初認したときは、実験室内で必ず悲鳴があがるが、翅、触角、脚などを認識するにつれ1つの生物であると認識するのか、かわいく見えてくるというから不思議である。これから… 2010年文部科学省が教育の情報化ビジョンを公表し、2020年GIGAスクール構想の実現に向け、児童生徒1人1台端末は令和の学びのスタンダードであると発表した。また同年4月より、小学校では新学習指導要領が開始し、小学校理科ではプログラミングされた生活に潜む科学技術をMESHを活用してそのしくみを学習すること、英語ではQRコードが教科書に記載され、専用アプリによる読み込みで英会話が視聴できるなど、教育現場ではICT教育が推進されている。このようなモノの操作・状態の把握・モノ同士の対話といったIoT技術を活用し、キャンパス教材フィールドと教育を繋げるにはどうしたら良いか、アイディアの域であるが提案したい。(1)生物の生態・系統=<IoT>=教育 キャンパスで教材観察できるメリットがある一方、生物は時期を外してしまうと目的物の観察は難しくなる。特に本年の4~7月は遠隔授業であったため、授業資料として例年と同じ教材の提供を学生に行ってきたが、その生物が生息する環境を学生自身がその場に立ち感じたかは定かではない。生物の生態や生態系内のつながりを観察できるように、キャンパス内の位置情報と生物情報をつなげ、見える化することで、時期を問わず、キャンパス内の季節変化を提供できる新たな教材フィールドができると考える。(2)生物の構造・機能=<IoT>=教育 実験は、学生自身が自分で体験し気づくことで学びとなるが、実験機器や器具のない状況下では、体験以前の学びすら難しいものとなってしまう。目視できない生物の微細な顕微鏡画像や実験過程だけでなく、実験の前処理などの動画ファイルをQRコードで授業資料に付加させることで、場所を問わず、学習に沿った実験観察を視聴可能なデジタル資料の作成ができると考える。3における環境状態や生態系に生息する同種間・異種間の多様性と共通性について、学生へ問い続けてきた。本項では、キャンパスの教材を利用した授業の一端を紹介する。(1)昆虫を知る  7月下旬、夏の到来を感じさせるセミ(カメムシ目セミ科)の多様な鳴き声が、種によって異なる時間帯に聞こえ始める。セミの幼虫は数年間土の中で樹液を吸って少しずつ成長し、羽化に適当な環境が整ったとき、土壌から出て、脱皮し成体になる。この脱皮が「セミの抜け殻」と呼ばれ、その殻の生物が、発見場所付近で生きていた生息環境を示す大事な証拠となる。 2013年ツクツクボウシ・アブラゼミ・クマゼミ、4年後の2017年はアブラゼミ・クマゼミの抜け殻がキャンパス内で確認できた。発見されたセミの中でもクマゼミは南方系のセミと言われ、市街地の木がまばらな乾燥した環境でも十分に産卵・ふ化・幼虫の成長が可能という地域の都市化進行の目安とされ、春日井市の都市化を知る手がかりとなる。また、セミの抜け殻そのものの構造(前脚の鋭さ、腹筋や複眼の様子など)を観察しても、セミの生態を知る手がかりとなる。生物の生きた痕跡から多様な見方ができることを知るきっかけの教材になればと思う。(2)土を知る 10月中旬、イチョウが色づき始めた頃、71号館の裏手にある林を活用し、土壌生態系の調査を行う。生態系は食物連鎖でつながっているが、土壌生物は落ち葉などの植物遺体の有機物を細砕し、分解者である土壌微生物の働きを助け、消費者でありながら、分解者的な働きも担う。 土壌生態系における生産者、消費者、分解者の繋がりを正しく認識する適応な教材といえ、学生にとって土壌形成の過程から土壌生物間のつながりについて知る良い環境が整っている。調査は全部で3つ。1つ目は土壌を深さ30㎝掘り、土壌生物が生息する土壌層の抽出、2つ目はその土壌を使用し、土壌微生物を、3つ目は土壌動物(大形と中形土壌動物はハンドソーティング法、小形土壌動物はツルグレン装置で採集)の存在を調査する。2016年は14種、2017年は17種と15種前後の土壌動物を確認した。土壌動物は自然環境の破壊や人為的な干渉といった環境の変化を敏感に感じ取り、生息場所を変えるため、その土地の自然の豊かさ(自然度)を知る手がかりにもなる。学生が実体顕微鏡で土壌動物の姿を初認したときは、実験室内で必ず悲鳴があがるが、翅、触角、脚などを認識するにつれ1つの生物であると認識するのか、かわいく見えてくるというから不思議である。これから… 2010年文部科学省が教育の情報化ビジョンを公表し、2020年GIGAスクール構想の実現に向け、児童生徒1人1台端末は令和の学びのスタンダードであると発表した。また同年4月より、小学校では新学習指導要領が開始し、小学校理科ではプログラミングされた生活に潜む科学技術をMESHを活用してそのしくみを学習すること、英語ではQRコードが教科書に記載され、専用アプリによる読み込みで英会話が視聴できるなど、教育現場ではICT教育が推進されている。このようなモノの操作・状態の把握・モノ同士の対話といったIoT技術を活用し、キャンパス教材フィールドと教育を繋げるにはどうしたら良いか、アイディアの域であるが提案したい。(1)生物の生態・系統=<IoT>=教育 キャンパスで教材観察できるメリットがある一方、生物は時期を外してしまうと目的物の観察は難しくなる。特に本年の4~7月は遠隔授業であったため、授業資料として例年と同じ教材の提供を学生に行ってきたが、その生物が生息する環境を学生自身がその場に立ち感じたかは定かではない。生物の生態や生態系内のつながりを観察できるように、キャンパス内の位置情報と生物情報をつなげ、見える化することで、時期を問わず、キャンパス内の季節変化を提供できる新たな教材フィールドができると考える。(2)生物の構造・機能=<IoT>=教育 実験は、学生自身が自分で体験し気づくことで学びとなるが、実験機器や器具のない状況下では、体験以前の学びすら難しいものとなってしまう。目視できない生物の微細な顕微鏡画像や実験過程だけでなく、実験の前処理などの動画ファイルをQRコードで授業資料に付加させることで、場所を問わず、学習に沿った実験観察を視聴可能なデジタル資料の作成ができると考える。図1.セミの抜け殻(右:アブラゼミ、左:クマゼミ)図3.令和2年(2020年)度発行の教科書(左:理科小6、右:英語小6)

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